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ハワード・ホークス内側からの切り返し表


		正面表(人物が映画内でキャメラを正面から見据えたショットの数	分断表(内側からの切り返しによる分断)	左→内側からの切り返し右→外側からの切り返し
1926	雲晴れて愛は輝く PAID to LOVE	1ショット　ヴァージニア・ヴァリが目を覚ました時の主観ショットでジョージ・オブライエンがクローズアップでキャメラを正面から見据えている。	12箇所。 ①王様の屋敷とそれを故障した車の中から見ている女(ヴァージニア・ヴァリ)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ②車の中の女に車の外から銀行家(J・ファレル・マクドナルド)が話しかける時の2人のあいだは、5ショット目に女と銀行家の「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、その外の6ショットはすべて内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。■『奇妙な同一画面』の存在は『分断』を裏付ける間接証拠ともなる。 ③パーティにやって来た女の王子(ウィリアム・パウエル)との初対面における2人のあいだは、10ショット目で『正常な同一画面』に収められた後、16ショット目で女の「スカートだけ」と王子の「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、22ショット目では王子と彼の前を通過する女の「胴体だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、28ショット目で再び同一画面に収められたあと(画質が悪いので正常か否か見分けがつかない)、29ショット目では王子の「足だけ」と女の「スカートだけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、30ショット目で再び『正常な同一画面』に収められるまで2人のあいだは分断され続けている。④射撃演習をする皇太子(ジョージ・オブライエン)と的とのあいだは1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑤テーブルの2人(女と王子の後ろ姿)とそれを車の窓から見ている2人(銀行家と王様(トーマス・ジェファーソン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑥その直後、テーブルの2人(王子と女の後ろ姿)と歩いて来て彼らを見ている皇太子とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑦庭を歩いている2人(女と皇太子)とそれを窓から見ている召使とメイドとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑧その直後、キスをしている2人(女と皇太子)とそれを窓から見ている2人(王様と召使)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑨その直後、女に耳打ちしている皇太子とそれを窓から見ている2人(王様と銀行家)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑩ドアを開けて部屋に入って来て着替えをする女とそれをドアの陰の椅子に座って盗み見ている王子とのあいだは、最初のショットで持続した時間の中で同一画面に収められているが女がドアを開けて入って来た時に王子はドアの陰に隠れて見えなくなり、ドアが自然に閉まって王子が姿を現した時には女は画面の外に消えており(『持続による同一存在の錯覚』、そこから12ショット目に『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。■実に手の込んだ『分断』が撮られている。服を脱いでゆくヴァージニア・ヴァリとそれをバナナの皮を剥きながら盗み見ているウィリアム・パウエルとのあいだの10ショットの内側からの切り返しはすべて別々に撮られておりその次のショットでヴァージニア・ヴァリが鏡を見てパウエルの存在に気づく縦の構図が『正常な同一画面』となるという粋な『分断』が撮られている。 ⑪電話の呼び鈴と女とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑫バッグを抱えたメイドと話をしている皇太子とそれを二階から見ている女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ■評　『分断』の傾向が多く見られる作品である。	297-19
1927	新旧恋の三段返しCradle Snatchers	なし? フィルムが劣化していて瞳がよく見えない。	全7巻のフィルムのうち3巻の一部と4巻が紛失している。 4箇所。 ①ベッドに手を掛け踊っている夫(ウィリアム・B・デビッドソン)とそれを見ている妻(ドロシー・フィリップス)とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。別々に撮られている。 ②出かける夫とそれを見送る妻をソファーに座って見ている2人(夫の姪ダイアン・エリスとその恋人ニック・スチュアート)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。別々に撮られている。 ③階段から降りて来た女三人組と男三人組とが対峙した後、女(ルイーズ・ファゼンダ)と男(ジョセフ・ストライカー)とのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた6ショットが内側から切り返されそこだけ別々に撮られている。■7ショット目に撮られた2人の同一画面と内側から切り返された6ショットとの空気が違うので別々に撮られているように見える。 ④浮気を勘違いして詰め寄る夫(J・ファレル・マクドナルド)と彼を見ている妻(ルイーズ・ファゼンダ)とのあいだは、4ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。別々に撮られている。 ■評　多くの内側からの切り返しは会話に主導された「同じ写真」として撮られている。	195-3
1932	暗黒街の顔役SCARFACE	7ショット程度。はっきりは→●ボスの事務所でボスがおとりの電話に出た後、椅子に座っているポール・ムニが2ショット、ドアのガラスを拳で割った後振り向いたポール・ムニが1ショット、すべてクローズアップでキャメラを正面から見据えている。あとはちらちら。	19箇所。 ①化粧をしているボスの女(カレン・モーリー)とそれをカーテンの陰から見ているギャング(ポール・ムニ)とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。別々に撮られている。 ②男とキスをしている妹(アン・ドヴォラック)とそれを見ている兄とのあいだは、キスをしているショットだけ別々に撮られて切り返されている。 ③車のステップに座り猿回しを見ている用心棒(ジョージ・ラフト)と二階の窓から顔を出し彼にコインを投げる妹とのあいだは、10ショットすべて内側から切り返されそのまま終わっている。■『窓空間』だがそれ以上の『分断』の意志によって2人のあいだのショットが撮られている。別々に撮られている。 ④病室で足を吊っている敵のポスと花束を抱えながら彼を銃撃するギャングとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。■1ショット目と3ショット目は敵のポスとギャングの「影だけ」が同一画面に収められた『奇妙な同一画面』でもある。 ⑤階段から降りてくるボスの女とそれを見ているギャングとのあいだは、1ショット内側から切り返されている。階段を降りてくるショットだけ別々に撮られている。 ⑥旅行社の看板とそれを窓から見ているギャングとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑦事務所の壁とそこへ向かってマシンガンを乱射するギャングとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑧舞台とそれを見ているギャングたちとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑨ボーリングをしている敵のボス(ボリス・カーロフ)と彼を銃撃するギャングたちとのあいだは、7ショットすべて内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。■ここは完全に『分断』されている。 ⑩男と踊っている妹とそれを見ている兄とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑪ボスの事務所で電話に出るボスとそれを見ているギャングたちとのあいだは、18ショット目に『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。■ポール・ムニが3ショットキャメラを正面から見据えるクローズアップが入るこのシーンは、その3ショット以外はさほどの『分断』を生じてはいない。 ⑫旅行社のネオンとそれを窓から見ているギャングとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑬駆けつけた警官たちの車両と彼らに撃たれる秘書(ヴィンス・バーネット)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑭隠れ家に入って来て銃を構える妹と兄とのあいだは、8ショット目で『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。おそらく別々に撮られている。 ⑮隠れ家を取り囲む警官たちとそれを窓から見ているギャングとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑯その直後、隠れ家を取り囲んでいる警官たちと彼らに向かってマシンガンを撃つギャングとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑰流れ弾の当たった妹とそれを見ている兄とのあいだは、7ショット目で『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■アン・ドヴォラックの顔に当たるサーチライトの照明の感じからして別々に撮られている。 ⑱ドアを破って入って来た警官たちと階段で投降するギャングとのあいだは、10ショット目で『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。■4ショット目まではずれているがそれ以降はさほどずれてはいない。 ⑲隠れ家から出て来たギャングと彼を銃撃する警官たちとのあいだは、3ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。別々に撮られている。 ■評　『窓空間』等、少ないショットの切り返しによる『分断』と、①③⑨⑪等の大胆な『分断』とを積み重ねながら撮られている。	204-26 階段を降りて来るカレン・モーリーとポール・ムニが話す時、4回外側から切り返されているのが最長。会話を主導とした外側からの切り返しだが、切り返される度に顔に当たる照明が修正されていることから「同じ写真」として撮られてはおらず。古典的デクパージュの範疇に入るものではない。
	群衆の喚呼 THE CE\|ROWD ROARS	2ショット。最後のレースでアナウンサーがちらちら見ているだけ。	なし。レースシーンは実写とスクリーンプロセスとスタジオと別々に組み合わせて撮られているが『分断』の傾向は希薄。■評　会話によって主導される古典的デクパージュ的外側からの切り返しが55ショットある。	85-55
1938	赤ちゃん教育BRINGING UP BABY	1ショット?、最後のシークエンスで婚約者(ヴァージニア・ウォーカー)が出て行ったあとのケーリー・グラントがロングショットでキャメラを見ているようにも見えるが基本的にキャメラを正面から見据えるタイプの作品ではない。	13箇所。 ①ゴルフ場で女(キャサリン・ヘップバーン)と速足で歩いている学者(ケーリー・グラント)と彼を待ちくたびれている弁護士(ジョージ・アーヴィング)たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ②女の運転する車のステップにしがみついている学者とそれを見ている弁護士たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ③二階のバルコニーと庭の2人(学者と女)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。テラス空間。別々に撮られている。 ④歩道を歩いている学者と車を運転しながら彼と話している女とのあいだは、最初のショットで一瞬『正常な同一画面』に収められた後、10ショットすべて内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑤鳥を積んだトラックと車の中の2人(学者と女)とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。別々に撮られている。 ⑥車の窓から車の窓へ飛び移るヒョウとそれを見ている女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑦シャワールームのドアから顔だけ出している学者とベッドの上の女とのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑧テーブルに乗っているヒョウと見つめ合っている酔っぱらい(バリー・フィッツジェラルド)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑨庭でヒョウの鳴き声について話している2人(少佐チャーリー・ラグルスと女の叔母メイ・ロブソン)と出現したヒョウとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑩戦っている2匹の動物(ヒョウと犬)とそれを見ている2人の人間(学者と女)とのあいだは、8ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑪動物園のトラックとそれを見ている2人(学者と女)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。主観ショット。 ⑫屋根の上のヒョウと窓から顔を出す2人(医者夫婦フリッツ・フェルドとタラ・バーレル)と、彼らを見上げて歌っている2人(学者と女)とのあいだは、14ショット内側から切り返されそのまま終わっている。後半から『窓空間』。別々に撮られている。 ⑬留置所のテーブルに飛び乗ったヒョウとそれを見ている一同とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ■評　主観ショットを人と人とのあいだの切り返しで撮る場合、必然的にキャメラを正面から見据えている人物のショットへ切り返すことになるが、④⑦⑫といった人と人とのあいだの『分断』が撮られているケースでは、どれも主観ショットではないショットが撮られることでホークスはキャメラを正面から見据えるショットを忌避している。	241-44
1939	ヒズ・ガール・フライデー(HIS GIRL FRIDAY	3ショット。すべてほんの一瞬ちらりと見ているだけ。 ①レストランの食事のシークエンスが終わって記者たちの集まっている部屋で電話に出ているロスコー・カーンズがロングショットでちらりと。②ロザリンド・ラッセルが原稿を破りケーリー・グラントとの電話を叩き切ってから帽子をかぶる瞬間にチラリと遠景で一瞬。③終盤、記者室に保安官のジーン・ロックハートが入って来てロザリンド・ラッセルを問い詰める時にちらりと。	7箇所。 ①模擬処刑をしている刑務官とそれを二階の窓から見ているロザリンド・ラッセル＋ロスコー・カーンズとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ②保険の健康診断が終わって上着を着たケーリー・グラントと部屋へ入って来た記者仲間のフランク・オースとのあいだは、11ショット目で『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。 ③処刑台の準備をしている刑務官とそれを二階の窓から見ている女ヘレン・マックとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ④マシンガンを撃っている警官たちとそれを二階の窓から見ている記者たちのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ⑤電話をしているロザリンド・ラッセルと脱獄して窓から入って来たジョン・クゥオーレンとのあいだは、2ショット目で手前のラッセルと奥のクゥオーレンが同一画面に収められているがラッセルは後ろ姿で「その人」と特定できず7ショット目で『正常な同一画面』に収まるまで内側から切り返されている。 ⑥窓から飛び降りた女とそれを二階の窓から見ている記者たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。 ⑦終盤、記者室に入って来た保安官(ジーン・ロックハート)とケーリー・グラントとのあいだは、8ショット目に『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。 ■評この作品は内側からの切り返しが89ショットあるのに対して外側からの切り返しが66ショットあり、これまで検討した作品に比べて外側からの切り返しが非常に多く撮られている。①③④⑥が『窓空間』による内側からの切り返しであり、これはまさに別々に撮られたような『分断』のショットのように見えているが、②と⑦は「同じ写真」で撮られており『分断』ではない。基本的に『正常な同一画面』の積み重ねによって撮られており『分断』の傾向は希薄である。	89-66
1944	脱出 TO HAVE AND HAVE NOT	はっきりはなし。	14箇所。 ①船の横で眠っているウォルター・ブレナンとそれを見おろしているハンフリー・ボガードとのあいだは、2ショット内側から切り返されている。■別々に撮られているように見えるが、次にブレナンに水をかける時には同じようなブレナンのショットからそのままキャメラが引かれて2人は同一画面に収められている。よってこの場合、①においてもブレナンとボギーとが同一空間にいた可能性が高く、それでいながら『別々に撮られている』ようなずれを生じさせているブレナンの眠っているショットはハワード・ホークスにおける『分断』の撮り方の傾向を示している。 ②海から飛び跳ねている魚とそれを釣っている釣りの客(ウォルター・サンデ)とのあいだは内側から切り返されている。■スクリーンプロセスなので別々に撮られている。 ③旗とそれを歩きながら見上げている釣りの客とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。別々に撮られている。 ④ドアにもたれる女(ローレン・バコール)と彼女にマッチを投げるボギーとのあいだは、『正常な同一画面』に収められたあと5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■ボギーの近景に寄ったショットではボギーの右頬に遠景では見られなかった白い線が4本ほど光っており、またバコールがクローズアップでマッチをつけるショットにしてもマッチの光線だけではあそこまで明るくは撮れないことからして、それぞれが「そのショット」として照明等が修正されて撮られている。またバコールが火をつけた後にマルセル・ダリオが瞳を右から左へと動かすショットにしても、私はこれを「オフオフ」と命名して「成瀬目線」とは区別しているが(映画用語辞典参照)、成瀬目線と共通しているのは、実際にそこにいる人物を見ているわけではなく、瞳を動かすことで画面の外にいない人物の存在なり動きを偽装していることであり、従ってオフオフのショットは『別々に撮られている』ことになる。それも踏まえてこのボギーとバコールとの映画の中での最初の出会いのシーンはさり気なく撮られている遠景から少しずつ「その人」を「そのひと」として撮る近景のショットへと移行させて撮られている。 ⑤その後、ホールで椅子に座っているバコールと遠くのテーブルからそれを見ているボギーとのあいだは、他のショットを含めて17ショット目に階段を上ってゆくバコールと彼女を追いかけてゆくボギーとが『奇妙な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。 ⑥釣り客の死体とピアノを弾きながらそれを見ているホーギー・カーマイケルとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショットだが角度が整合していない。別々に撮られている。 ⑦将校と踊っているバコールとそれを見て笑っているボギーとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑧陸で点滅する光と船からそれを見ているボギーとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。別々に撮られている。 ⑨その後、船に乗ろうとする黒ずくめの女(ドロレス・モラン)とボギーとのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■2人に(特にドロレス・モランに)当てられた照明がその直前の『正常な同一画面』から修正されている。別々に撮られている。 ⑩その直後、船に乗り込んだ夫婦と舵の前でそれを見ているボギーとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。■ボギーは殆どキャメラを正面から見据えているが切り返されたドロレス・モランはキャメラの左を見ているので、主観ショットの体裁でありながら視線はずらされている。 ⑪機銃を撃っている巡視船の水兵たちと応戦するボギーとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑫出発せずホーギー・カーマイケルのピアノで歌っているバコールとそれを見ている2人(ボギーとブレナン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されたあと3ショット目に同一画面に収められている。、、と、普通ならそうなるところがその2ショット目でそのままボギーたちは歩いて来て歌っているバコールと同一画面に収められている。ということは、2ショット目は『別々に撮られていない』というとことになるが、すると1ショット目のジャムセッションのショットもまた『別々に撮られていない』のかというと、そうでもなく、バコール等が正面から撮られたこのジャムセッションのショットは主観ショットであり、キャメラがあいだに割り込んで撮られているのだから別々に撮られている。よく見るとボギーとブレナンの視線がずれている。 ⑬ボギーの靴の紐をバコールがほどこうとして断られるシーンでの2人のあいだは、最初は外側から切り返され、次に内側から切り返され始める。2人の体にはブラインドの影がシマウマのようになって当てられている。しかしボギーが立ち上がる前に内側から切り返されたショットはそれまでと違ってキャメラはより正面寄りになりボギーに当てられるブラインドの影もより鮮明に修正されている。ここでキャメラは2人のあいだで邪魔をしているというほど正面ではないが照明の修正と、より正面と化したキャメラ等によって「ずれ」を生じている。 ⑭黒いドレスに着替えて歌っているバコールとそれをカウンターから見ているボギーとのあいだは、10ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。	184-97
1946	三つ数えろ THE BIG SLEEP	なし。	9箇所。 ①雨の降る夜の屋敷とそれを車の中から見ている探偵(ハンフリー・ボガード)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。②その直後、屋敷の中へ入ってゆく女とそれを車の中から見ている探偵とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ③その後、屋敷の中で揺れているビーズの簾とそれを見ている探偵とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ④ドアを開けた男(ルイス・ジン・ハイト)を撃ち逃げながら発砲する男(トム・ラファティ)と彼を追う探偵とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑤その直後、歩道を歩いている男とそれを車の中から見ている探偵とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』、別々に撮られている。 ⑥ベッドの上に寝ている死体とそれを見つけた探偵とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑦コートを着てカジノから出て来た長女(ローレン・バコール)が駐車場で男に銃を突きつけられているところを車のリアウインドウを通して見ている探偵とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。停めてある車の窓を挟んだ『窓空間』。別々に撮られている。 ⑧修理工場とそれを車のドアにもたれながら見ている探偵とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑨隠れ家に車でやって来たギャングたちとそれを窓から見ている探偵とのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。別々に撮られている。 ■評　『分断』されているのはすべてハンフリー・ボガードの主観ショットであり主観ショットとは別々に撮られる以外にはあり得ないことからしても、また内側からの切り返し184ショットに対して外側からの切り返しが134ショット撮られているこの作品の人物たちは基本的に『正常な同一画面』に収められていて『分断』の傾向を見出すことはできない。	184-134
1951	遊星よりの物体X THE THING FROM ANOTHER WORLD)	なし	7箇所。 ①地上の基地とそれを飛行機から見ている隊員たちとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ②北極の基地にやって来てマーガレット・シェリダンの部屋に入って来たケネス・トービーとシェリダンのあいだは、6ショット目に『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。 ③墜落機とそれを飛行機の窓から見ている隊員たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ④犬を襲っている怪物とそれを窓から見ている隊員たちとのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑤火だるまになって逃げる怪物と窓からそれを見ている隊員たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑥ドアを破って通路に入って来た怪物とそれを見ている隊員たちとのあいだは、9ショット目で同一画面に収められているが隊員たちは後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)、それ以外はすべて内側から切り返されている。 ⑦その直後、通路は暗くなり体勢を立て直してもう一度隊員たちが怪物と対峙したときの両者のあいだは、26、33ショット目で同一画面に収められているものの隊員たちは後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)、それ以外の28ショットはすべて内側から切り返されそのまま終わっている。 ■評　チームワークの映画を撮っているので『窓空間』を含めて人間同士を『分断』させる切り返しは②以外は撮られていない。②はほぼ正面から撮られたシェリダンのショットが微妙に「ずれ」ている。最後の通路での怪物との戦いでいよいよ『分断』が始まり持続させそのまま終わっている。	84-14
1958	リオ・ブラボー RIO BRAVO)	なし。	19箇所 ①酒場のカウンターで酒を注いでいる男(クロード・エイキンス)とそれを恨めしそうに見ている飲んだくれ(ディーン・マーティン)とのあいだは、20ショット目で『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。 ②保安官事務所の窓からショットガンを構えている老保安官(ウォルター・ブレナン)とそれを見ている者たち(リッキー・ネルソン・ジョン・ウェイン・ウォード・ボンド等)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ③保安官事務所を見張っている男と彼を見ている2人(保安官ジョン・ウェインと牧場主ウォード・ボンド)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ④しばらくあと、保安官事務所を見張っている男たちと彼らを見ている2人(保安官と飲んだくれ)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑤酒が切れて膝を叩いて苦しんでいる飲んだくれと彼を見ている保安官、老保安官とのあいだは、11ショット目に『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。 ⑥夜、町の見回りに出て通りの左側を歩いてゆく保安官と通りの右側を歩いてゆく飲んだくれとのあいだは、20ショット目でロバに驚いた保安官の元へ飲んだくれが駆け付けるまですべて内側から切り返されている。別々に撮られている。■こんな撮り方をしていたとは。 ⑦馬屋の中とそれを見回す保安官とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。ぐるりと見回す主観ショット。 ⑧酒場でトランペットが吹かれる時とそれをテーブルから見ているガンマン(リッキー・ネルソン)とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。視線がずれている。別々に撮られている。■場所的不明確性。リッキー・ネルソンが酒場のどこに座っているのか最後までわからない。 ⑨飲んだくれに成りすました男とそれを遠くから見ている保安官とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。別々に撮られている。 ⑩さらにその後、同じように4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。別々に撮られている。 ⑪男たちに銃を突き付けられホールドアップしている保安官とそれを宿の中から見ている2人(ガンマンと女)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑫さらにその後、馬に乗って逃げるなりすまし男と彼をライフルで撃つ保安官とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑬人質交換のために馬でやって来た敵の一団とそれを保安官事務所から見ている保安官とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑭立て籠もっている小屋の窓から顔を出している敵の男たちとそれを見ている2人(保安官とガンマン)とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑮小屋の二階の窓から落下する敵の男と彼を撃った飲んだくれとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。スタント。別々に撮られている。 ⑯背後へ回るため小屋から出て来た敵と彼らを射撃する2人(保安官とガンマン)とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 ⑰立て籠もっている物置に弾を持ってやって来た宿屋の主人(ベドロ・ゴンザレス＝ゴンザレス)と保安官とのあいだは、一度も同一画面に収められることなく7ショットすべて内側から切り返されそのまま終わっている。■最後の7ショット目では保安官と宿屋の主人の投げた『弾だけ』が同一画面に収められている。 ⑱ダイナマイトの馬車の横にいる老保安官と彼にそこから逃げるよう命令する保安官とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られているかも知れない。 ⑲手を振り合う保安官と飲んだくれとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。別々に撮られている。 20→論文「リオ・ブラボー(RIO BRAVO)」(1958)参照 ■評　最後の銃撃戦ではさらなる『分断』を見出せるだろう。極めて内側からの切り返しが多くまた外側からの切り返しも多いこの作品は『分断』される切り返しと『分断』されない切り返しとがはっきり分かれている。	559-71